外山恒一の「マルクス主義入門」がスグレモノすぎる


このサイトは一応、私が一昨年の秋から毎月発行している超高級冊子『人民の敵』のweb版ということになっているのだが、紙版とweb版は内容的にまったく関係ない。

紙版は四百字詰原稿用紙換算で毎号2百枚近く、時には2百枚以上の分量があり、とうていネット向きではない。2号分で平均的な単行本1冊以上分なのである。

jinteki そもそもは、2007年の例の都知事選を経てもまったく変化のない“文筆収入ほぼゼロ”の不遇に(私、一応、外山恒一ですよ)絶望して、こうなったら自力で何とかしよう、現下の日本あるいは世界における私の存在にそれなりの重要性を認めてくれている者も全国に何千人かはいるだろう、その中には、月に5千円程度なら資金援助して私の活動を支えることも可能だという人も何十人か、あるいは百人ぐらいはいるに違いない、しかしただ「毎月5千円ください」ではあんまりだから、何か謝礼的なものを用意しなければなるまい、私が人に自慢できるのは文筆の才能ぐらいだから、やはり何か読み物を提供するしかない、毎月5千円ももらうんなら最低でも原稿用紙百枚分、できれば2百枚分ぐらいは必要な気がする、しかし毎月百枚、2百枚と書くネタもそうそうないし、あ、周囲の面白い活動家や思想家の友人知人と歓談したものをテープ起こしするだけならそれくらいの分量はこなせそうだ、その場の会話の勢いで、まだ文章とかにはしていないけれども私が最近考えていることなんかもポロッと出てくるだろうし、問題意識の現状報告的な側面も併せ持たせることができる、そういうのを毎月2、3本載せれば、読者は私と誰かが歓談してる席に居合わせて隣で耳を傾けているような雰囲気も味わえるだろう、しかも内容のほとんどを忘れてしまうに違いないリアルな傍聴と違って、活字での記録だから何度も読み返せる、例えば私に月に1回、和民か何かでオゴって話をじっくり聞くようなものだと考えれば、自分と私の分でまあ5千円ぐらいにはなるだろうし、しかも2、3本の歓談が載ってるってことは1回分の料金で2、3回、話を聞いてるようなものなんだからむしろ割安だとも云えるぐらいだ、よし、最初は数人だろうが1年も続けてれば50人か100人ぐらいの読者はつくに違いない、それだけ読者がつけば私はもう生活費にも活動費にも不自由しなくなるし、まさにフルタイムの活動家として天下国家に貢献できる、ということで始めたものである。

しかしなかなか読者は増えず、途中で「まあさすがに実質1冊5千円は高すぎるか」とシステムを変え、「同一号を5冊送付するから余った4冊を周囲に1冊千円で売ったり、あるいは最初から“5人組”を形成して1人千円ずつ出し合って注文するよろし」ということにした。それでも2年以上を経た現在、正直に云って紙版の正規購読者は10人前後である。もちろん収入ゼロの時代に比べればかなりマシなのだが、とうてい生活費ましてや活動費をまかなえる額ではない。1冊千円とかに値下げすればどうかという人もあるが、金を出す気のない者は値下げしたってどうせ出さないのは分かっている。私自身、紙版の『人民の敵』にはかなりやり甲斐を感じているので、今後も発行を続けたいし、どうせ続けるんなら読者を増やしたい。

というわけで、たまには紙版の内容紹介でもしようかな、と。

 

紙版はすでに現時点で第25号まで出ていて、しょっちゅう発行が遅れながらもいずれどうにか追いつき、“毎月発行”の体裁をつまり2年以上守れている。

先述のとおり主には私と誰かの対談あるいは座談会的な歓談のテープ起こしをコンテンツとしているが、たまに、どうせ単行本化されるアテのない書き下ろし原稿を掲載したりもする。

ここ数号には、夏にやった学生向けの第5回「教養強化合宿」のために書き下ろした「マルクス主義入門」という文章を“連載”している。合宿当日までには結局完成させられず、その後書き継いで現在ではすでに完成、第23号の「マルクス主義入門・前篇」、第24号の「マルクス主義入門・後篇」、第25号の「マルクス主義入門・ロシア革命史篇・前篇」がこれまでに出て、まもなく出す第26号の「マルクス主義入門・ロシア革命史篇・後篇」で完結する。

これが我ながらよくできている(と思う)。とりあえず23、24号だけ読んでも、マルクス主義に関する基礎知識はほぼ網羅的に得られるはずである。もちろん私はファシストで反マルクス派だから、マルクス主義への批判的視点も随所に挟んである。これだけの網羅的な内容をもし独力で把握しようと思ったら本を最低でも何十冊かは読まなければならない。それが居酒屋に私を2回連れて行ってオゴるぐらいの値段で、しかも“共同購入”すれば自己負担わずか2千円で把握できるんだから、なぜ注文が殺到しないのか不思議でならない。さらにフンパツして「ロシア革命史篇」まで読めば、マルクス主義のみならずマルクス・レーニン主義まで、必要な基礎知識には全部言及してあるんだから、日本共産党が大量購入して都合の悪いところを墨塗りした上で不勉強な若い党員たちに配布したっていいぐらいの話である。

繰り返すが、本当に網羅的なのだ。マルクス主義の基本用語はもちろん、よく引用される有名なフレーズ、有名なエピソードの類はおそらくすべて紹介・解説している。

もっとも極めてオーソドックスなもので、オリジナリティに関してはあまり自慢できない。そもそも前記のとおりココロザシの高い学生諸君を集めた合宿で、リッパな活動家となるために必要不可欠な知識を“詰め込み教育”するための“教科書”である。オリジナリティとか必要ない。

マルクス (FOR BEGINNERSシリーズ イラスト版オリジナル 3) しかも“タネ本”がある。もともと「第4回」までの合宿では、エドワルド・リウスといメキシコの風刺漫画家か何からしき人が書いた『フォー・ビギナーズ マルクス』(現代書館・80年)という本をテキストに使用していた。“絵解き漫画”的なスタイルで、まずマルクスの生涯についてざっと触れた後、「マルクス主義にはドイツの哲学、イギリスの経済学、フランスの社会主義運動という3つの源泉がある」というレーニンの言葉が引用されて、その“3つの源泉”それぞれについての解説がおこなわれる。非常に分かりやすい。何を隠そう(何も隠さないが)、私自身が18歳の時にこの本を読み、初めて出会った“体系的な反体制思想”のその体系の壮大さに愕然として、一夜にしてマルクス主義者となったほどの良書である。“1を聞いて100を知る”現国エリート、現代文読解の天才だし、このあまりにも大雑把でほぼマンガな概説書をとおして私が獲得した「マルクス主義ってこういうもの」という認識は、その後さまざまな勉強や運動経験を経ての視点から振り返っても、そう間違ってはいなかった。

が、1つにはやはり大雑把にすぎるのである。そして、私はもはやマルクス主義者ではないし、頑固で旧いタイプのマルクス主義者であるリウスの記述には物足りない点、はっきり云って異論も山ほどあり、過去の合宿ではそれらを口頭で付け加えていたのだが、いっそリウスの解説手順を下敷きに、もっと納得のいくものを自分で書いてしまえと思って書いたのが今回の「マルクス主義入門」である。

リウスのマルクス主義理解が古臭いこと自体は実は悪いことではない。20世紀の革命運動史においては、その古臭い理解に基づいたマルクス主義運動が展開されたんだし、マルクスの研究者になろうとでもいうのなら話は別だが、革命運動に挺身するにあたって過去の運動史ぐらい踏まえておきましょう、というのが私の趣旨だからである。私の「マルクス主義入門」は、したがって確信犯的にリウスの記述をなぞっていく。

ただし、例えばリウスは、ひいきの引き倒しで、まるで社会主義思想がマルクスの独力で完成させられたかのような書きっぷりである。もちろんフランスを中心とする社会主義思想の成立史はざっと説明されるが、マルクス以外の社会主義者たちは、まるでマルクスにやがて誤りを指摘されるためだけにあれこれと妄言を連ねた、捨て石のような存在にすぎなかったかのようである。私は、マルクスに先行する、あるいはマルクスと同時代の著名な社会主義者たちそれぞれについて、なるべく公正に、何を主張しどう行動したのか解説を付け加えたりしている。とくにリウスが簡単に斬って捨てている19世紀フランスの最大の革命家・ブランキについての解説に、かなりの分量を割いた。

古代ギリシアに始まりドイツのカント、ヘーゲルに至る西洋哲学史についても、リウスの記述を下敷きに、他の哲学入門書からも大量に引用して、不足を補った。

全体的に私の記述は、「マルクス主義者はマルクス主義をどのようなものと理解している(いた)か」というリウスの記述に沿った解説と、それを相対化するための私自身の反マルクス派としての参照情報とを併記する形で進む。

517pux7vil-_sx346_bo1204203200_ “第2部”的な“ロシア革命史篇”では、タネ本がリウスから松田道雄の『ロシアの革命』(74年・河出文庫・「世界の歴史」シリーズ第22巻)に代わる。マルクス・レーニン主義には批判的で、どちらかというとアナキズムびいきの立場で書かれた本なので、私の記述はほとんどタネ本べったりと化してしまっているように我ながら思う。が、タネ本にない、しかしココロザシある若い諸君にはぜひ知っておいてほしい情報も大量に付け加えられている。

例えばネチャーエフについてである。ロシアの革命運動史上、あるいは世界の革命運動史上、ことによると人類史上、“一番スゴい奴”なのではあるまいかと私が薄々思っている、ひたすら悪名高いロシアの革命家である。ドフトエフスキーの『悪霊』のモデルになったほどの有名人なので、もちろんタネ本にもそれなりの分量で記述はあるのだが、ネチャーエフに思い入れの強い私にはやはり物足りなかった。さらに、タネ本にチラッと出てくるマリノフスキーのエピソードを機に脱線して、マリノフスキー、アゼフ、飯塚盈延……と革命運動史を彩る有名な(やはり悪名高い)スパイたちについてそれぞれ解説してもいる。

 

とまあ、マルクス主義という思想の中身から、それを実践に移したとされるレーニンの革命に至るまで、基本中の基本たる、しかし夥しい数のとくに哲学関連の社会科学用語から、歴史的事件、ぜひ知っておいた方がよい諸々のエピソードまで、さらには少々マニアックな方向での脱線的豆知識まで、そんじょそこらの今ふうの無知蒙昧な左右の活動家たちが逆立ちしても敵わないほどの幅広い教養が、ほとんど知識ゼロの状態から読み進んでいくうちに片っ端から身についてしまうという、とんでもないスグレモノの入門書なのである。

たかだか飲み会数回ぶんの金をはたいて読まない奴の気がしれない。

“購読”のシステムなど詳細はコチラ